11月になりました。秋も深まり、もう冬はそこまで来ています。みなさんは「雪虫」という言葉を聞いたことはありますか?「雪虫」は冬の季語でもあります。文字通り虫の呼び名なのですが、「雪虫が飛ぶと初雪が近い」という、ちょっとロマンチックな言い伝えもあります。実際、北海道では雪虫が飛ぶと一、二週間後には雪が降ると言われています。私も雪が舞うように雪虫が飛んだあと、実際に雪が降ったことに感動したのを覚えています。ところで雪虫ってどんな虫なんだろう。実は不思議な昆虫なのです。
この虫の正体は、羽の生えたアブラムシの仲間です。札幌周辺では、小さくてまるで煙のように群れになって飛ぶケヤキフシアブラムシなど、この時期には六、七種の雪虫が飛びます。中でも代表的な雪虫が、一番大きくてぼたん雪が舞い降りるように飛び回るトドノネオオワタムシ。体長が大きいもので4mmほどあり、つかまえてみると、おしりに綿のような白い「ふさふさ」がついています。これは何だと思いますか。綿ではありません。「ワックス」です。虫の身体にあるワックス腺からにょろにょろっと出ており、それがふわふわとしたものになっておしりについているんです。どうしてこんなものをつけるのでしょう。綿のようなふさふさは、飛ぶときに、パラシュートの役目をしているんだって。
北海道の人々はこの雪虫の発生で、雪の降る季節を知ります。そして、冬の季節の到来をあらためて実感するのです。北海道の人々にとって、この雪虫は「冬の風物詩」といえます。
雪虫のように季節を感じさせるようなものが最近少なくなっています。花屋さんでも一年中、菊の花が買えます。菊は切り花用としてその生産量が最も多い花です。菊の花は、夜の長さ、つまり暗い時間が、ある一定時間よりも長く続いたときに花を作るのです。だから、実は秋から冬にかけてが菊も旬なのですね。菊の産地では、自然の日長条件では花を咲かすことができない時期には、遮光して人工的に夜を作ります。逆に花を咲かせないようにするためには、夜に電灯照明をつけて人工的に昼間を作ります。これに温度条件なども調節して通年の生産・出荷を可能にしているわけです。勝手に咲く時期をコントロールしているわけです。
現在では花に限らず、環境条件を人為的にコントロールして野菜栽培が行われ、また魚などの養殖も盛んに行われています。それだけではなく、保存や輸送技術の発達、海外からの輸入もあり、季節を問わず、さまざまな食材を手に入れられるようになりました。
わたしたちのくらしはどうでしょう。携帯でいつでも相手とつながり、コンビニは24時間開店し、ネットでいつでも買い物ができる。TVもほぼ24時間放映されるなど、人々の生活スタイルの多様化に合わせるようにとても便利になりました。生活がどんどん便利になる一方、ある調査によると、「日の出・日の入りを1回も見たことがない」と答えた子どもが約52%いるんだそうです。別に日の出を見たことがないからと言って、何かがすぐに問題になるわけではありません。しかし、わたしたちは快適な暮らしを手に入れた一方で、24時間煌々と光にさらされ、空調の効いた室内環境に閉じこもってしまいがちになり、季節感も一日の移ろいを感じる感性さえも失いつつあるのかも知れません。
「雪虫」はその小さな身体で、わたしたちが忘れつつある「感性」を、懸命に教えてくれている気がします。秋はいい季節です。この季節、勉強のことばかりではなく、いろんなことを考えてみてはいかがですか?ぶらぶら散歩でもして季節を味わってみましょう。