皆さんは、映画を観るときは字幕派ですか、それとも吹き替え派ですか? 俳優たちのオリジナルの音声が聞ける字幕、映像に集中できる吹き替え、どちらも一長一短ありますよね。

同じセリフでも、音声より文字の方が理解するのに時間がかかるので、字幕を作る際にはルールがあります。日本語の場合は1秒に4文字まで、そして、1行は13〜14文字で2行までというルールです。これは、一般的な日本人が楽しんで観ることができる文字数だと言われています。ところが、これが翻訳作業を厄介にしています。早口の人なんて出てくると大変です。

字幕と吹き替え、8本の映画で、それぞれのセリフの文字数を数える検証がありました。平均すると、吹き替えの方が15%もセリフが多いという結果でした。差の多い映画では、字幕の方がワンシーンで500字近くの情報が削られていました。限られた文字数の中で、いかにわかりやすく表現するかが翻訳者の腕の見せ所です。

一方で、吹き替えなら、早口の人のセリフは単純に早口で言えばいいだけなので簡単に思えますが、吹き替えも決して簡単ではありません。「リップシンク」と言って、俳優の口の動きに合わせて言葉を選ぶのですが、言語が違うので、当然口の動きは違います。これを、できるだけ不自然にならないように、意味を変えないように、かつ口が動いている間にセリフが収まるようにするのは至難の技です。

ミュージカルでは口の動きが不自然にならないように、日本語の語尾を英語と同じ語尾に揃えたりしています。そのうえ、周囲の音声まで全て日本語にしなければいけないので、吹き替えの方が翻訳に時間がかかります。

たくさんの制限の中、セリフを省略し、言い回しを変え、時には意味さえ変えながらも日本語として成立させるため、翻訳者たちは日々奮闘しています。ある有名な翻訳家が「他の国の言葉を日本語にすること自体に無理がある」と言うくらい難しいことです。

日本語には日本語の、英語には英語の良さがあるように、どちらにも違った良さがあります。制作者の苦労や工夫がわかってくると、今までとは違った角度で楽しめるようになりますよ。