ある日、魔法使いが一人の少年の前にあらわれて、一粒の魔法薬をプレゼントしました。
どんな魔法薬なのかというと、これから学習する知識や問題の解き方を一瞬で習得できてしまう魔法薬なのだといいます。
少年は毒でも入っているのではないかと疑いましたが、お母さんからテストの点数で怒られたばかりでむしゃくしゃしていたので、思い切って魔法薬を飲んでしまいました。
翌朝、目が覚めてリビングへ行くと新聞が目に入りました。するとどうでしょう。難しい漢字ばかりのはずなのに、隅々まで読み方も、何が書いてあるのかも分かってしまいます。
「魔法使いが言っていたことは本当だったんだ!」
それからというもの、教科書に書いてあることも、授業で先生がお話しになることも、知っていることばかり。テストはいつも満点。
少年は有名な難関中学校に合格。優等生として周りから尊敬され、楽しい学校生活を送り、何の苦労もせずに日本一難しい大学に首席で合格しました。
大学の入学式の日。あの魔法使いが再びあらわれました。
「あれからもう8年になるが、すっかり背も伸びて立派になったね」
「はい!あなたには本当に感謝しています。何か恩返しができれば良いのですが」
「いやいや。これから十分に楽しませてもらうから大丈夫だよ」
「楽しませてもらう…ですか?」
魔法使いが何を楽しみにしているのか、よく分かりませんでしたが、
にたにたとほくそ笑む様子が不気味で、逃げるように魔法使いと別れました。
数日後、大学の講義が始まると、今までになかったような、いや、とても懐かしい感覚を覚えます。
講義内容に知らないこと、分からないことがあるのです。
大学のテキストをパラパラめくると、知っていることも少しは書いてありますが、知らないこともたくさん書いてあります。中には知らないことだらけの箇所もあります。書いてある意味の分からない箇所もあります。
「もしかして…」
そうです。あの魔法薬で習得できたのは、ちょうど高校卒業程度の知識までだったのです。
そして、この8年間でもっと経験しておくべきだったことがたくさんあることに気付かされ、その失った時間の大きさに呆然としてしまいました。
この物語はここで終わります。
その後、この主人公がどういった人生を歩んだのか、想像してみてください。
そして、もっと経験しておくべきだったこととは、どんなことだったのでしょうか。
あなたなら、魔法の薬をのみますか?