日本剣術の世界には、右と左の両手にそれぞれ1本ずつ刀を持って攻守を行う「二刀流」(別名「二刀剣法」)という特殊な技法があります。(「二天一流」という流派を開いた江戸時代初期の剣客である宮本武蔵が、この剣術を重視したことは有名ですね。) この言葉、現在では派生して、2つの異なる手段をもって事にあたること、あるいは同時に2つのことを行うことも意味します。今、この漢字三文字が代名詞のようになっているプロ野球選手がいます。ご存知、北海道日本ハムファイターズに所属する大谷翔平選手です。
高校時代から注目されていた彼は、2012年に日本ハムに入団した後、賛否両論が渦巻く中、プロ野球では非常に珍しい、「投手と打者の兼任」にチャレンジしています。プロ入り2年目に、野球の神様と呼ばれたベーブルース以来96年ぶりの「2桁勝利&2桁本塁打」を達成(日本では初)、更に昨年はパ・リーグの投手部門三冠に輝き、今年も打撃面が絶好調と、短期間で驚くべき進化を遂げています。まだあどけなさが残る普通の若者が、どうしてこのような圧倒的パフォーマンスを発揮できるのか。それは彼の生い立ちと関係がありそうです。
大谷選手曰く、「ボクは野球を始めた頃から、他の子どもよりもボールが速い自覚がありました。」そんな彼が、今ではNPBタイ記録の球速162km/hを投げる歴代日本人最速投手となっています。つまり、出発点はこの「自覚」だったわけです。この「(他の子どもより)ボールが速い」という自覚。その「自覚」があったからこそ、その「強み」を意識し、「自信」を持ち、「もっと速く投げたい」と「練習(行動)」につながっていったのです。成長というのは、「何かに優れているという自覚を持つこと」から始まるのかもしれません。
さらに、今の彼の主軸になっているものの一つに、高校時代に実践していた、花巻東高校の佐々木監督から教わった「目標設定シート」の存在がありました。そのツールを使って、「目標と、それを達成するための手段(方法・過程)」を明文化したのです。また、別の目標用紙には、「俺がこの道の開拓者になる」「野球界の歴史を変える」「夢は近づくと目標に変わる」といった文字も並んでいました。時に、「言葉が人生を決める」とも言われますが、大きな成果を出す人たちは皆、夢や目標を達成するため、日々のトレーニングを積み重ね、そして、確固たる信念のもと、夢・目標を書いたり、人に言ったりするなどのアウトプットをしているのです。
そもそも、大谷選手は、なぜ二刀流にこだわるのでしょうか。あるインタビューでの返答で、彼の二刀流への想いをうかがい知ることができます。
「ピッチャーはゲームを作れます。バッターはゲームを決められます。それぞれの立場での野球の面白さを同時に感じることができるのが二刀流です。誰もやったことがないようなことがやりたい。つまり、自分しかやっていないところに魅力があります。そこに“自分にしかできない仕事”があるんじゃないか、と思ってやっています。」
誰も成し遂げたことのない大きなことが目の前にある。周囲からいろんなことを言われても、自分ではそれをやりきる自信はある。だから、それを楽しんで行うことができる。やるしかない。もしかしたら、失敗してできないかもしれない。でも、そこに挑戦しなくては先がない。非常に大きな覚悟を持って、今のプロ野球界に乗り込んできたのでしょう。
これだと決めた事柄に対して、「覚悟」して「挑戦」する姿勢、年齢・ジャンル関係なく、ぜひ見習いたいですね。