「風の谷のナウシカ」や「となりのトトロ」などのアニメ映画で有名な宮崎駿さんのことは、皆さんも知っていると思います。
宮崎さんは「風立ちぬ」を作った後に、惜しまれながらも引退を発表しましたね。
その宮崎さんが実写映画を作っていたことを、知っているでしょうか。映画の名前は「柳川掘割物語」(1987年)といいます。『火垂るの墓』や『おもひでぽろぽろ』の高畑勲さんが監督をつとめ、宮崎さんは製作責任者として関わりました。
柳川掘割物語は一人の男の信念の物語です。今から30年ほど前の日本が高度成長期に、福岡県の柳川市で水路(掘割)の埋め立て問題が起こりました。水質汚染や不法投棄で水路がゴミだめになって悪臭を放ち、大量の蚊が発生していました。そのため住民からこんな水路はいらないから埋め立ててしまおうという声がでたのです。
大勢の人がそれに賛成しました。悪臭の元がなくなって水路が道路になれば、住民の生活も便利になります。しかしそれに反対したのが、広松さんという市役所の係長でした。
昔から柳川の人々は町中に水路をめぐらし、そこに川の水や雨水を流すことで、農業用水や生活用水として利用してきました。少ない水を大切に使い、自然と共存してきたのです。しかし、高度成長と共に人々は忙しくなり、水路とのつきあいを忘れ、川や水路を守るという手間を怠ってしまったのです。
係長の広松さんは、水路の埋め立てに反対し、市長に直訴しました。そして住民の協力が必要だと考え、水路の大切さを町内会で訴えました。2年間で100回以上です。さらに自らが先頭にたって、ドブ川となった水路を掃除したのです。その真剣な姿を見た住民も次第に協力し始め、一緒に水路を掃除するようになり、ゴミも捨てなくなりました。水路は少しずつ昔の美しい姿を取り戻し、人々は再び水路と共に生きるようになったのです。埋め立て計画は中止されました。
たとえ大勢の人に反対されたとしても、自分の強い信念に基づくものであれば、広松さんのようにそれを貫くのも大切な生き方です。もちろんそのためには、周囲の人を説得するための深い思慮や熱意、行動力が必要です。信念を持つことの大切さと難しさを、皆さんも一度考えてみてはどうでしょうか。