ルネサンス期の美の巨匠といえば誰が思いつくでしょうか。『モナリザ』で有名なレオナルド=ダ=ヴィンチが思い浮かぶかもしれません。しかしながら当時、ダ=ヴィンチよりも名声を得ていた人物がいます。存命中から「神から愛された男」と呼ばれたその人物の名はミケランジェロ=ブオナローティです。ルネサンス期の芸術家らしく、彫刻・絵画・建築・詩とさまざまな分野で優れた作品を残しています。『ダヴィデ像』や『天地創造』などが有名ですね。
美術史上最大の規模を誇る絵画が、サン=ピエトロ大聖堂の天井画『最後の審判』です。詩人ゲーテが、「人の成し得ることの偉大さをしりたければこの絵を見るがいい」といったことで知られています。その大きさは、四階建てビルの壁の面積に相当するといわれています(200㎡ほど)。これほどまでに大きな天井画はどのように製作されたのでしょうか。足場を組み、上を向いて描いたそうです。絵を描き始めた当初、人を雇って描かせたそうですが、仕事ぶりが気にくわず結局一人で描いたそうです。そのため完成まで4年の歳月を要しました。製作は相当過酷な作業だったようです。上に向かって描くという無理な姿勢で絵を描き続けたため体をおかしくしてしまいました。天井に描くため、体を弓のように反り返らせたため首の骨が曲がり、しかも絵の具がたれてきます。そのために目もやられたそうです。
『最後の審判』を見るとき、私たちはその圧倒的な迫力と美しさに目を奪われ、ミケランジェロの才能に畏敬の念を抱くことになるかもしれません。あるいは、「天才だ!」と思うかもしれません。「才能がある」、「天才だ」などという一言で片付けてよいのでしょうか。この製作の過程を知るとそのような疑問が頭をよぎります。たしかにミケランジェロは類まれな才能に恵まれたのは事実です。しかし、それと同じくらい情熱をかたむけ、苦しいことにたちむかっていたのではないでしょうか。すばらしいと思える“結果”は、毎日できることを継続した“結果”であるということです。
メジャーリーガーのイチロー選手がこう言っていました。「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道」だと。偉大な成果の裏には必ず努力があるということを忘れてはなりません。目標は果てしなく遠いかもしれませんが、いまできることを継続してやり続けてください。それこそが目標をかなえる唯一の手段です。そしてそれは誰もができる普通の積み重ねのです。
予断ですが、『最後の審判』の中にミケランジェロの自画像があるといわれています。天才と謳われたミケランジェロですが、生涯自分の容姿にコンプレックスを抱いていたようです。意外な姿で描かれています。気になる方は探してみてください。